ゲーム業界のコミュニティマネージャーとは何者か?最前線から学ぶ7つの本質— a16z Games対談「The Powerful Role of Community Managers in Gaming」より

この記事では、a16z GamesによるYouTube対談「The Powerful Role of Community Managers in Gaming」の内容を取り上げ、日本のソーシャルメディアマネージャーやコミュニティマネージャーの皆さんにとって何かしらの参考になればと思い、印象的だった内容や気づきを整理しています。

目次

はじめに

a16z GamesのYouTubeチャンネルで公開された本動画では、ゲーム業界におけるコミュニティマネージャーの役割とその進化について、現場での経験に基づいたリアルな知見が語られています。

登壇者は、当時『Among Us』を手がけていたInnerslothのVictoria Tran氏と、『Omega Strikers』を運営していたOdyssey InteractiveのRyan Rigney氏。いずれも実務の第一線で活躍する存在であり、本対談では「コミュニティの立ち上げ」「カルチャーの形成」「SNSとの向き合い方」など、幅広いトピックが扱われました。

コミュニティマネージャーは「翻訳者」であり「空間設計者」

Victoria氏は、「コミュニティマネージャーは開発者とプレイヤーの言語を翻訳する存在」だと説明していました。開発側が持つ内部的なロジックや用語を、ユーザーにも理解しやすい形で届ける——その“通訳”としての役割は、日本の現場でも痛感することです。

また、Discordなどのコミュニティ空間を「楽しく、安全で、健全な場として設計する」という“空間デザイン”の観点も重要。Ryan氏は「リアルイベントのように、秩序とホスピタリティを整えることが求められる」と語り、オフラインと同等の配慮が必要だと強調していました。

私もSNS運用時に「翻訳者」としての立場を強く感じます。開発サイドが何を考え、どんな意図でアップデートを出すのかを、ユーザーの視点で“再言語化”することが求められるのは、まさにこの役割だと感じました。

必要なスキルは“後から身につく”もの

Victoria氏が語るコミュニティマネージャー像で印象的だったのは、「演者」「ライター」「動画編集者」「SNS担当」といった多様な役割を1人でこなす必要性。とはいえ、「元からすべて得意だったわけではなく、必要に迫られて覚えた」とのことでした。

これは私も強く共感します。小規模チームで働いていると「誰かがやらねば」で自分が学び始めることは多く、最初のクオリティは低くても、場数を踏むことで自然と身についていくことを体感しています。

「最初からスキルがなくても、試してみる姿勢」がコミュニティマネージャーには必要不可欠。

コミュニティ運営の起点は「誰に届けるか」

Ryan氏は、ターゲット設定の重要性を何度も強調していました。Odyssey Interactiveでは、初期ユーザーとして「大学のeスポーツサークルに所属する18〜22歳の競技志向ゲーマー」に絞り、実際にDiscordサーバーを通じて声をかけていったそうです。

これは、届けたい相手を明確にしたことで、発信するトーンや使用するプラットフォーム(TikTok/Discordなど)を論理的に選択できた例です。

「届けたい人を明確にする」発想は改めて意識したい部分でした。

指標より“熱量”を追う

プレイヤー数や登録者数といった定量指標よりも、「どれだけ残って、会話し、行動してくれるか」という“熱量”の方が重要であるという共通認識も印象的でした。

Ryan氏は「プレイテストが終わったのに、Discordに残って雑談している学生がいたとき、これは本物だと感じた」と語っています。

実際、私もその熱量に突き動かされて、日本向けの攻略サイトを立ち上げたり、Discordコミュニティの開設などを行いました。コミュニティが自然発生的に盛り上がり始めたときの熱気や、ユーザーが自発的に参加してくれる感覚は、何にも代えがたい原動力になります。

ミームは“笑い”で受け止める

Among Usで課金要素を導入する際、「資本主義です」と自虐気味にミームとして発表したエピソードは、非常に学びが多いものでした。

Victoria氏いわく、「最も多く寄せられるであろう批判のコメント」を先に笑いに変えて提示することで、議論をポジティブな方向へ誘導する狙いがあったそうです。

ミーム文化への感度は、単なる“ノリ”ではなく、ユーザーの感情の先回り。私も炎上リスクの高い告知時は「一番怖いリプは何か?」を先に書き出してから対応を考えます。

採用で見るべきは「実績」より「姿勢」

Ryan氏は、「スキルの有無よりも、自律的に動ける人材を採用すべき」と語っていました。実際に、自社Discordでモデレーターを務めていた人物をコミュニティマネージャーに登用し、自ら課題を見つけ、提案・改善まで行う姿勢によって、スピード感のある運営が実現していると紹介しています。

Victoria氏も「最初から完璧である必要はない」「実行力と改善力がある人なら伸びる」と話しており、経験よりもマインドセットの重要性が語られていました。

「好き」だけでなく「やりきる」人材かどうかを見抜く観点は、今後チーム構築を考える上でも参考にしたい点でした。

ソーシャルメディアマネージャー/コミュニティマネージャーに活かせる視点

今回の対談から得られる最大の学びは、以下の3点に集約できると感じました:

  • 役割は固定されていない。必要に応じて広がるもの
  • 「届けたい相手」の明確化が、すべての起点
  • 数字より“熱”を見よ

どれも表面的なテクニックではなく、“どう在るか”というコミュニティマネージャーとしての姿勢に関わる重要な視点です。特に、Victoria氏の「ゲームや改善には本気。でも自分自身は真剣すぎず楽しむ」という言葉には、深く共感しました。

この一言には、現場で長くやっていくためのヒントが詰まっていると感じます。コミュニティマネージャーはユーザーとの前線に立ち、時には批判も受け止めながら、場を前向きに維持していく必要があります。その中で、自分自身が“ゲームの一部”として楽しむ姿勢を忘れないことは、結果としてブランドのトーンやファンとの距離感に反映されていきます。

また、Ryan氏の「発信を始める前に誰に届けたいかを定義せよ」という姿勢も印象的でした。私たちソーシャルメディアマネージャーやコミュニティマネージャーは、つい数字やKPIに目が行きがちですが、結局は「この人に届けたい」と思える具体的な誰かを想像できているかどうかが、その後のすべての判断を決めるのだと改めて実感しました。

私は“主役ではないけれど、場の雰囲気を決める”存在。だからこそ、自分を追い詰めすぎず、でも文化づくりには本気でいたい。ユーザーにとって心地よい空気を育てることが、結果的にブランドの未来を左右する。そんな役割にやりがいを感じています。

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